GLOSSARY

経済学の地図 用語集 ── まず日常語で、そのうえで正確に

「金利」「需要」「国債」「財政出動」──比較地図と4本の深掘りページで繰り返し出てくるのに、実はどこにも定義が書かれていない言葉があります。このページは、そうした土台の語から、各ページ末の用語集にあった専門的な語まで、サイト全体で使う経済用語58語を1か所に集め、カテゴリ別に整理したものです。基礎的な語は、まず日常語で説明し、そのうえで正確な定義を添える二層構成にしています。各語には、どのページで詳しく扱っているかのリンクも付けました。

CATEGORY 1

① お金と金利の基本

金利
お金を借りたときに、元の金額に上乗せして払う「手数料」のようなもの。逆に、お金を預けたり貸したりする側は、その分を受け取る。正確には、借りたお金(元本)に対して一定期間ごとに支払う対価の割合(通常は年率)。借り手にはコスト、貸し手・預金者には収益になる。 → トップページ「貨幣制度という土俵」で詳しく
政策金利
中央銀行が上げ下げする「基準」の金利。これが動くと、住宅ローンや預金の金利にも波及していく。正確には、中央銀行が金融政策の操作目標として設定する短期金利(日本では無担保コールレート、米国はFF金利など)。上げ下げを通じて経済全体の金利水準やインフレ率に影響を与える。 → 深掘り②「MMT」第6章(日本という実験場)で詳しく
中央銀行
国のお金全体を管理する「銀行の中の銀行」。日本なら日本銀行、米国ならFRB(連邦準備制度)。正確には、通貨発行・政策金利の決定・金融機関への資金供給などを通じて、物価と金融システムの安定を図る公的機関。 → 深掘り③「主流派経済学」第1章で詳しく
国債
政府の「借金の証書」。正確には、政府が財政資金を調達するために発行する債券で、投資家や銀行、日本銀行などが購入する。政府は満期に元本を返済し、それまでの間は利子を支払う。 → 深掘り②「MMT」第6章(日本という実験場)で詳しく
量的緩和(QE)
金利をこれ以上下げられない時に、中央銀行が国債などを大量購入してお金を市中に供給する政策。日本銀行が2001年に先行して導入し、2008年以降は各国の標準装備になった。 → 深掘り③「主流派経済学」第5章で詳しく
内生的貨幣
銀行が貸し出しを実行すると同時に、借り手の口座に新しい預金を記帳して生み出す、という貨幣創造の順番についての考え方。「銀行はまず預金を集め、それを元手に貸し出す」という昔ながらの説明とは逆の順番になる。2014年にイングランド銀行が公式に認め、現代の標準的な理解として定着した。ただし、中央銀行が金利を通じて最終的に貨幣量をコントロールできるかどうかについては、主流派とMMTで評価が分かれる。 → 深掘り②「MMT」第2章で詳しく
通貨主権
自国通貨を発行し、変動相場制を採り、外貨建て債務を持たないこと。MMTの主張が成り立つための条件。 → 深掘り②「MMT」第1章で詳しく
表券主義(貨幣国定説)
貨幣の価値は、金などの商品ではなく国家の権威(納税手段としての指定)によって支えられるという考え方。 → 深掘り②「MMT」第3章で詳しく
変動相場制
自国通貨と外国通貨の交換レート(為替レート)を、市場の需給に任せて動かす仕組み。正確には、為替レートを政府・中央銀行が固定せず、市場の取引に委ねる制度。対義語は固定相場制。 → 深掘り②「MMT」第1章で詳しく
外貨建て債務
自分の国のお金ではなく、他の国のお金(ドルなど)で返さなければいけない借金。正確には、元本・利子の支払いが自国通貨ではなく外国通貨建てで確定している債務。自国通貨をいくら発行しても返済には使えないため、為替変動がそのままデフォルト(債務不履行)リスクに直結する。 → 深掘り②「MMT」第1章で詳しく
公開市場操作
中央銀行が国債などの有価証券を市場で売り買いすることで、金融機関の準備預金量や短期金利を調整する金融政策の手段。 → 深掘り③「主流派経済学」第4章で詳しく
IORB(準備預金付利)
Interest on Reserve Balancesの略。中央銀行が民間銀行の準備預金残高に対して支払う付利金利。この金利水準を上げ下げすることで政策金利を制御する(アンプル・リザーブ体制)。 → 深掘り③「主流派経済学」第4章で詳しく
アンプル・リザーブ体制
FRBが2019年から採用する政策金利の制御方式。準備預金の量を絞り込む「希少性の操作」ではなく、IORB(準備預金付利)などの管理金利を設定して金利を制御する。 → 深掘り③「主流派経済学」第4章で詳しく
CATEGORY 2

② 政府と財政

財政出動
政府が自分の財布からお金を出して、公共事業や給付金などで景気を下支えすること。正確には、政府が歳出を増やすことで総需要を刺激し、景気を下支えする政策。ケインズ経済学が理論的支柱。 → トップページ「ケインズ経済学」で詳しく
緊縮
政府が「支出を切り詰めて、収入を増やす」こと。財政出動の反対。正確には、政府が歳出削減や増税によって財政赤字を縮小しようとする政策。 → トップページ「日本編」で詳しく
クラウディングアウト
政府が借金して支出すると金利が上がり、民間の投資が押しのけられるという理屈。ゼロ金利下では起きにくい。 → トップページ「一覧比較」で詳しく
機能的財政論
財政の是非を収支均衡ではなく、完全雇用と物価安定という結果で判断すべきだとするアバ・ラーナーの理論。 → 深掘り②「MMT」第3章で詳しく
就業保証プログラム(JGP)
働きたい人全員に政府が最低賃金の仕事を保証する政策。MMTの政策的な柱のひとつ。 → 深掘り②「MMT」第1章で詳しく
完全雇用
働きたい人がほぼ全員、仕事に就けている状態。正確には、景気循環的な失業がなく労働市場が均衡している状態。転職の合間などの摩擦的失業は残るため、失業率0%を意味しない。 → 深掘り②「MMT」第1章で詳しく
FTPL(財政物価水準理論)
財政収支と物価水準を直接結びつける理論。ジョン・コクランらが代表的論者。コンセンサスではなく有力な一潮流。 → 深掘り③「主流派経済学」第5章で詳しく
CATEGORY 3

③ 物価と景気

需要と供給
買いたい人がどれだけいるか(需要)と、売りたい人がどれだけいるか(供給)。このバランスで値段が動く、という考え方。正確には、需要はある価格で人々が買おうとする量、供給はある価格で売り手が売ろうとする量。両者が一致する点で価格と取引量が決まる、というのが市場経済の最も基本的な原理。 → トップページ「一覧比較」で詳しく
GDP(国内総生産)
その国で1年間に新しく生み出された「価値」を全部足し合わせたもの。国の経済の大きさを測る「ものさし」。正確には、一定期間(通常1年間)に一国内で新たに生産された財・サービスの付加価値の合計。物価変動を含む名目GDPと、それを除いた実質GDPの2種類がある。 → 深掘り②「MMT」第6章(日本という実験場)で詳しく
インフレ(インフレーション)
モノやサービスの値段が全体的に上がっていくこと。同じお金で買えるものが少なくなる。正確には、物価水準が持続的に上昇する現象。 → トップページ「局面別の処方箋」で詳しく
購買力
お金には2つの顔がある。数字としての金額(額面)と、それで実際に買えるモノやサービスの量(購買力)。物価が上がると、額面が同じでも購買力は目減りする。正確には、貨幣の名目上の金額(額面)に対して、それが実際に持つ実質的な価値、すなわち一定の金額で購入できる財・サービスの量のこと。国が確実に保証できるのは額面の支払いだけで、購買力までは保証できない。 → 深掘り②「MMT」第11章(なぜインフレになるのか)で詳しく
デフレ(デフレーション)
モノやサービスの値段が全体的に下がっていくこと。正確には、物価水準が持続的に下落する現象。需要不足を伴うことが多く、賃金低下や消費の先送りを招きやすい。 → トップページ「局面別の処方箋」で詳しく
インフレ目標
中央銀行が「物価上昇率を年2%程度にする」のように数値目標を公約し、人々の予想(期待)を安定させることを通じて運営する金融政策の枠組み。世界で最初に正式導入したのは1990年のニュージーランドで、現在は主要中央銀行の世界標準になっている。 → 深掘り③「主流派経済学」第3章で詳しく
流動性の罠
金利がほぼゼロまで下がり、それ以上の金融緩和が効かなくなる状態。「ひもは押せない」と喩えられる。 → トップページ「局面別の処方箋」で詳しく
需給ギャップ
経済全体の需要と供給能力の差。プラスに開くとインフレ圧力、マイナス(需要不足)だとデフレ圧力になる。 → 深掘り③「主流派経済学」第3章で詳しく
NAIRU
インフレを加速させない失業率の下限。この水準を下回ると、賃金・物価が上昇しやすくなるとされる目安。 → 深掘り③「主流派経済学」で詳しく
大平穏期(Great Moderation)
1980年代半ばから2007年ごろまで続いた、インフレも景気変動も比較的穏やかだった時代の呼び名。 → 深掘り③「主流派経済学」第5章で詳しく
FAIT(平均インフレ目標)
過去のインフレ未達を将来のオーバーシュートで埋め合わせる、2020年にFRBが導入した戦略。2025年の枠組みレビューで撤回され、伝統的な柔軟なインフレ目標(FIT)に回帰した。 → 深掘り③「主流派経済学」第5章で詳しく
CATEGORY 4

④ 学派・理論

新しい新古典派総合
ケインズ的な短期の考え方と、新古典派的な長期の考え方を組み合わせた、現在の主流派経済学の正式名称。ニューケインジアンとほぼ同義で使われる。 → 深掘り③「主流派経済学」第1章で詳しく
DSGEモデル
動学的確率的一般均衡モデル(Dynamic Stochastic General Equilibrium model)の略。ニューケインジアンの枠組みを数式化したもので、家計・企業・政府・中央銀行が将来を予想しながら行動する様子をコンピュータ上で再現する。FRB・日銀・ECBなど中央銀行の標準的な分析ツール。 → 深掘り③「主流派経済学」第3章で詳しく
HANK
家計ごとの所得・資産の違い(異質性)を組み込んだニューケインジアンモデル。学術研究では主流化が進む一方、中央銀行の実務では計算負荷の重さから補完的な位置づけにとどまる。 → 深掘り③「主流派経済学」第5章で詳しく
メニューコスト
価格を変更する際にかかるコスト(値札の張り替えなど)。企業がすぐには値段を変えない「価格の粘着性」の理由のひとつ。 → 深掘り③「主流派経済学」第3章で詳しく
テイラールール
インフレ率の目標からのズレと、需給ギャップから、目標金利を機械的に算出する公式。1993年にジョン・テイラーが提案。 → 深掘り③「主流派経済学」第3章で詳しく
折衷
対立する2つ以上の考え方の、良いところを組み合わせること。正確には、相反する立場や理論の要素を組み合わせて一つの体系にまとめること。主流派経済学(ニューケインジアン)は、ケインズ経済学と新古典派経済学を時間軸で使い分ける折衷理論とされる。 → 深掘り③「主流派経済学」第7章で詳しく
リフレ派
「デフレは貨幣現象であり、大胆な金融緩和で脱却できる」とする日本独特の論陣。アベノミクス第一の矢の支柱。 → トップページ「日本編」で詳しく
資本
増えることを目的に運動し続けるお金。G(お金)→W(商品)→G′(増えたお金)。 → 深掘り①「資本論」第3章で詳しく
労働力
1日働ける能力のこと。労働者が会社に売っているのは、労働そのものではなくこれ。 → 深掘り①「資本論」第4章で詳しく
剰余価値
労働力の価値(給料)を超えて生み出された価値。だまし取っているのではなく、等価交換のもとで生まれる。 → 深掘り①「資本論」第4章で詳しく
搾取
ふだんは「不当にだまし取る」という意味で使われる言葉だが、マルクス経済学ではもっと限定された意味を持つ。正確には、労働者が生み出した価値のうち、賃金として受け取る分を超えた部分(剰余価値)を、資本家が取得すること。契約は対等でルール違反もない、等価交換のもとで発生する構造的な仕組みを指す。 → 深掘り①「資本論」第4章で詳しく
物象化
人と人の関係が、モノとお金の関係の姿をとって現れること。たとえば、工場の労働者どうしの助け合いという人と人の関係が、「商品の価格」や「株価」の上下としてしか見えなくなるように。現代マルクス研究の中心概念のひとつ。 → 深掘り①「資本論」第2章で詳しく
蓄積
利益を再投資して資本が雪だるま式に増えること。 → 深掘り①「資本論」第5章で詳しく
恐慌
資本主義の内側から生まれる経済の崩壊。マルクス自身は理論を完成させておらず、説明は諸説ある。 → 深掘り①「資本論」第6章で詳しく
プロスペクト理論
損失回避・参照点依存・確率加重を組み込んだ意思決定理論。カーネマンとトヴェルスキーが1979年に発表。 → 深掘り④「行動経済学」第1章で詳しく
損失回避
同じ金額でも、得るときの喜びより失うときの痛みを強く感じる傾向。「何倍痛いか」は文脈依存とされる。 → 深掘り④「行動経済学」第1章で詳しく
アンカリング
最初に提示された数字に、そのあとの推定が引っ張られる現象。検証された古典的効果の中でもとりわけ頑健。 → 深掘り④「行動経済学」第1章で詳しく
現状維持バイアス(デフォルト効果)
初期設定のまま変えずにいる傾向。政策のデフォルト設計の根拠になる。 → 深掘り④「行動経済学」第1章で詳しく
ナッジ
選択の自由を残したまま、環境設計で望ましい行動を後押しする手法。効果は実在するが平均的には小さい。 → 深掘り④「行動経済学」第4章で詳しく
CATEGORY 5

⑤ 研究の方法

主に深掘り④「行動経済学」の再現性危機・効果量論争を読み解くための、統計・研究方法の基礎語です。

効果量
ある介入や条件の違いが、結果にどれだけの大きさの差を生んだかを表す統計指標(例: Cohenのd)。「効果があったかどうか」だけでなく「どれくらい効いたか」を表す数字。 → 深掘り④「行動経済学」第4章で詳しく
メタ分析
同じテーマを扱った複数の研究結果を統計的に統合し、より精度の高い結論を導く手法。個々の研究単体より信頼性が高いとされる。 → 深掘り④「行動経済学」第4章で詳しく
検定力
実際に存在する効果を、統計的に有意な結果として正しく検出できる確率。サンプルサイズが小さいと検定力が低くなり、本当の効果を見逃しやすくなる。 → 深掘り④「行動経済学」第3章で詳しく
統計的に有意
観察されたデータの差が、偶然だけでは生じにくいと統計的な基準(通常はp値0.05未満)で判断された状態。「効果が大きい」こととは別の基準で、小さな効果でもサンプルが大きければ統計的に有意になりうる。 → 深掘り④「行動経済学」第7章で詳しく
追試
既存の研究結果を、別の研究者・別のサンプルで再現できるか検証すること(再現性の検証)。追試で崩れた発見と、追試でも確認された発見を見分けることが、この分野の信頼回復の土台になった。 → 深掘り④「行動経済学」第3章で詳しく
出版バイアス
効果が確認された研究ほど論文として発表されやすく、効果がなかった研究は発表されにくいという偏り。メタ分析の結果を過大評価させる一因になる。 → 深掘り④「行動経済学」第4章で詳しく
事前登録
実験の実施前に、仮説と分析方法を公開しておく手法。あとから都合よく解釈を変える余地をなくし、再現性を高める。 → 深掘り④「行動経済学」第3章で詳しく
WEIRD
Western(西洋)・Educated(高学歴)・Industrialized(工業化)・Rich(裕福)・Democratic(民主的)の頭文字。心理学・行動経済学の実験被験者の偏りを指す。 → 深掘り④「行動経済学」第8章で詳しく
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この用語集について

トップページと深掘りシリーズ4本、それぞれのページ末にあった用語集(計51項目)をすべて統合し、各ページの本文で頻出しながら定義されていなかった基礎語(金利・国債・GDP・財政出動・緊縮・需要と供給・政策金利など)を新たに追加しました。統合元の51項目のうち「インフレ目標」「DSGEモデル」「内生的貨幣」「量的緩和(QE)」の4語は複数のページで少しずつ異なる説明がされていたため、重複を除くと47語になります。これらは両方の情報を突き合わせ、より正確で情報量の多い1つの定義に統一しています。各ページ末の用語集は引き続き残しており、このページはサイト全体を横断する共通の参照先です。

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