BEHAVIORAL ECONOMICS FOR BEGINNERS

深掘()りシリーズ 第()4弾() ── 行()動()経済()学()超()入()門()

行()動()経済()学()ってなに? ── ノーベル賞()のあとに来()た、正()直()な総()点()検()

「人間()は非()合()理()」という一言()から始()まり、ノーベル経済()学()賞()に何()度()も輝()き、政()府()の政()策()にまで採()用()され、そして2010年代()後()半()に手()痛()くつまずいた分()野()──それが行()動()経済()学()です。ブームはもう終()わりましたが、そのぶん「何()が本()物()で、何()が流行()りで終()わったか」の仕()分()けが済()んでいます。この記()事()では登()場()するすべての概()念()に頑()健()度()ラベル(★の数())を付()けて、その仕()分()け結果()を正()直()にお見()せします。

この記()事()の読()み方() ── 頑()健()度()ラベル

  • ★★★ 大()規()模()再()現()で頑()健() ── 複()数()の独()立()した 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で確()認()されている知()見()
  • ★★ 実()在()するが文()脈()依()存() ── 効()果()はあるが、状()況()や条()件()で大()きさが変()わる
  • ★ 再()現()失敗()・疑()義() ── 大()規()模()な 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で崩()れた、または信()頼()性()が疑()問()視()されている

この記()事()に出()てくる概()念()すべてに、このラベルを付()けています。「確()立()された知()見()」と「流行()った話()」を最()初()から区()別()して読()めるようにするためです。

-1万()円()(失()う痛()み) +1万()円()(得()る喜()び)

↑ 行()動()経済()学()の出発()点()、プロスペクト理()論()の一行()まとめです。人()は同()じ金()額()でも、得()るときより失()うときのほうを強()く感()じます(損()失()回()避())。ただし「何()倍()強()く感()じるか」は状()況()次()第()で、定()数()として一般()化()はできないというのが2026年()時()点()の理()解()です(第()1章())。

CHAPTER 1

第()1章() 行()動()経済()学()とは ── 3分()で地()図()

伝()統()的()な経済()学()は、人間()を「ホモ・エコノミクス」──あらゆる情()報()を計()算()し、常()に自()分()の利()益()を最()大()化()する合()理()的()な存()在()──として扱()ってきました。行()動()経済()学()は、この前()提()に心()理()学()の知()見()で修()正()を加()える分()野()です。人()は損()得()を非()対()称()に感()じ、最()初()に見()た数()字()に引()っ張()られ、初()期()設定()のまま動()かず、時()間()や状()況()によって判()断()が変()わる。そうした「クセ」を実験()で確()かめ、理()論()に組()み込()んでいきます。

まずは中()核()となる6つの概()念()を、代()表()実験()・日()常()例()・頑()健()度()ラベルとあわせて一覧()できるようにしました。

プロスペクト理()論()

★★★

「得()の喜()び」より「損()の痛()み」を強()く感()じる 損()失()回()避() 同()じ金()額()でも、得()る喜()びより失()う痛()みを強()く感()じる傾()向()。 もっと詳()しく → 、評()価()の基()準()点()が変()わる参()照()点()依()存()、低()い確()率()を過()大()評()価()し高()い確()率()を過()小()評()価()する確()率()加()重()──この3つを数()式()化()した理()論()です。

代()表()実験(): ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが1979年()に『Econometrica』誌()で発表()。経済()学()でもっとも引()用()される論()文()のひとつです。

日()常()例(): 1万()円()を拾()った喜()びより、1万()円()を落()とした悲()しみのほうが強()く残()る。含()み損()の株()をなかなか売()れない「塩()漬()け株()」も同()じ心()理()です。

「損()は得()の2.25倍()痛()い」という定()数()の普()遍()性()は、Gal & Rucker(2018)の批()判()で否()定()されています。Mrkva et al.(2020)は「 損()失()回()避() 同()じ金()額()でも、得()る喜()びより失()う痛()みを強()く感()じる傾()向()。 もっと詳()しく → の終()焉()という報()道()は大()げさだ」と反()論()していますが、2026年()時()点()の落()としどころは「効()果()は実()在()するが、何()倍()かは状()況()次()第()」という高()度()に文()脈()依()存()的()な理()解()です。この非()対()称()は、記()事()の最()後()のおまけで、期()待()値()と比()べながら数()字()で確()かめられます。

アンカリング

★★★

最()初()に提()示()された数()字()(アンカー)に、そのあとの推()定()が引()っ張()られる現()象()です。

代()表()実験(): トヴェルスキーとカーネマンが1974年()『Science』誌()で発表()。細()工()したルーレットを10か65で止()め、「アフリカ諸()国()が国()連()に占()める比()率()」を推()定()させたところ、中()央()値()は25%()(10で止()まった群())と45%()(65で止()まった群())に割()れました。

日()常()例(): 9,800円()という値()付()け、メニューの一()番()上()に置()かれた1万()円()のコース。

Many Labs 1(Klein et al., 2014)という36サンプルの大()規()模() 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で、原()論()文()より強()い効()果()が確()認()されました。検()証()された13の古()典()的()効()果()の中()でもとりわけ頑()健()な部()類()に入()ります。ただし支払()意()思()額()を尋()ねるタスク(Arielyらの系()統())では再()現()が不()安()定()という報()告()もあります。

現()状()維()持()バイアス
(デフォルト効()果())

★★★

初()期()設定()(デフォルト)のまま変()えずにいる傾()向()です。

代()表()実験(): サミュエルソンとゼックハウザーが1988年()に定()式()化()。

日()常()例(): 使()っていないサブスクの解()約()をつい先()延()ばしにする。

政()策()のデフォルト設計()(第()7章()の臓()器()提()供()デフォルトなど)の根()拠()として、行()動()経済()学()の中()でもとりわけ強()固()な知()見()です。

システム1/システム2

★★

直感()的()で速()い思()考()(システム1)と、じっくり考()える遅()い思()考()(システム2)という二()重()過()程()モデルです。

代()表()実験(): カーネマンが2011年()の著()書()『ファスト&スロー』で一般()化()。バットとボールのセット価()格()1.10ドル、バットがボールより1ドル高()いという問()題()では、多()くの人()が反()射()的()に10セントと答()えますが、正()解()は5セントです。

日()常()例(): とっさに答()えて、あとから計()算()ミスに気()づく暗算()。

説()明()の枠組()みとしては非()常()に有()用()ですが、脳()の中()に本()当()に2つの独()立()したシステムがあるという厳()密()な神()経()科()学()的()裏()付()けは限()定()的()で、比()喩()として理()解()するのが安()全()です。

メンタルアカウンティング

★★〜★★★

お金()には本()来()色()がついていないのに、頭()の中()で「生()活()費()」「ボーナス」「臨()時()収()入()」と勝手()に別()の財()布()に仕()分()けてしまう心()理()です。

代()表()実験(): セイラーが1985年()・1999年()の論()文()で体()系()化()。5ドル割引()のために遠()くの店()まで車()を走()らせるかを尋()ねた有()名()な実験()では、15ドルの電()卓()なら68%()の人()が「走()らせる」と答()えたのに対()し、125ドルのジャケットでは29%()まで下()がりました。同()じ5ドルでも、割()合()が小()さく見()えると動()かなくなるのです。

日()常()例(): 給()料()からの月々()の節()約()は苦()しいのに、ボーナスや旅()行()先()では同()じ1万()円()を気()前()よく使()ってしまう。

ナッジ

★★

選()択()の自()由()を残()したまま、環()境()設計()によって望()ましい行()動()をそっと後()押()しする手()法()です。

代()表()実験(): セイラーとサンスティーンが2008年()の著()書()『NUDGE』で提()唱()。

日()常()例(): 社()員()食()堂()で健()康()的()なメニューを目()線()の高()さに置()く、男()性()用()小()便()器()に描()かれたハエの絵()(狙()いを定()めさせて飛()び散()りを減()らす)。

効()果()は確()かに存()在()しますが、平()均()的()な 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → は当()初()考()えられていたより小()さいことが近()年()わかってきました。詳()しくは第()4章()で掘()り下()げます。

研()究()の現()在()地()メモ ── 主()流()派()との関()係(): 行()動()経済()学()は、独()立()した研()究()分()野()として存()続()しつつ、主()流()派()経済()学()(ニューケインジアン)の内()部()にも「合()理()性()の現()実()的()な修()正()モジュール」として統()合()されつつあります。カーネマンは2002年()、ナッジで知()られるリチャード・セイラーは2017年()に、それぞれノーベル経済()学()賞()を受()賞()しました。この統()合()の様()子()は、深掘()り第()3弾()「主()流()派()経済()学()ってなに? 第()4章()」でも触()れています。
CHAPTER 2

第()2章() 歴()史() ── ブームの放()物()線()

行()動()経済()学()の歴()史()は、まっすぐな成()功()物語()ではありません。学()術()的()なブレイクスルーからノーベル賞()、政()府()の政()策()採()用()、そして一般()書()のベストセラー化()と、放()物()線()を描()くように盛()り上()がり、2010年代()後()半()に「再()現()性()危()機()」で急()降()下()し、いまは落()ち着()いた成()熟()期()に入()っています。

1979

プロスペクト理()論()の発表()

カーネマンとトヴェルスキーが『Econometrica』誌()に プロスペクト理()論() 損()失()回()避()・参()照()点()依()存()・確()率()加()重()を組()み込()んだ意()思()決定()理()論()。 もっと詳()しく → を発表()。行()動()経済()学()という分()野()の出発()点()です。

2002

カーネマン、ノーベル経済()学()賞()を受()賞()

共()同()研()究()者()だったトヴェルスキーは1996年()に死()去()していたため対()象()外()でした(ノーベル賞()は存()命()者()にのみ授()与()されます)。

2008

セイラー&サンスティーン『NUDGE』刊()行()

学()術()的()な理()論()だった行()動()経済()学()を、政()策()や実()務()に使()える道()具()として一般()に広()めた1冊()です。

2010

英()国()BIT設()立()

内()閣()府()内()に世()界()初()の政()府()ナッジユニット「Behavioural Insights Team」が設()立()されました(詳()しくは第()7章())。

2013

シラー、ノーベル経済()学()賞()を受()賞()(行()動()ファイナンス)

行()動()経済()学()そのものではなく、行()動()ファイナンス(市()場()における人間()の非()合()理()性()の研()究())が権()威()づけられた出来事()です。

2014

米()国()SBST設()立()

オバマ政()権()下()でホワイトハウスに「Social and Behavioral Sciences Team」が設()立()され、政()策()現()場()でのナッジ活()用()が米()国()にも広()がります。

2017

セイラー、ノーベル経済()学()賞()を受()賞()・日本()BEST発足()

セイラーの受()賞()と同()じ年()、日本()でも環()境()省()主()導()のナッジユニット「BEST」が発足()しました(第()7章())。行()動()経済()学()がもっとも脚光()を浴()びた年()です。

2024年()3月()

カーネマン死()去()

2024年()3月()27日()、90歳()で死()去()。 プロスペクト理()論() 損()失()回()避()・参()照()点()依()存()・確()率()加()重()を組()み込()んだ意()思()決定()理()論()。 もっと詳()しく → の生()みの親()であり、行()動()経済()学()という分()野()そのものの生()みの親()でもありました。

2020年代()

再()現()性()危()機()と不()正()スキャンダルで成()熟()期()へ

分()野()を代()表()する研()究()のいくつかが大()規()模()な 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で再()現()に失敗()し(第()3章())、著()名()研()究()者()のデータ不()正()も相()次()いで発覚()しました(第()5章())。ブームは終()わりましたが、そのぶん何()が本()物()かの仕()分()けが進()み、分()野()は落()ち着()いた成()熟()期()に入()っています。

研()究()の現()在()地()メモ ── 放()物()線()というパターン: 学()術()的()な発見()からたび重()なるノーベル賞()受()賞()、政()府()への採()用()、ベストセラー化()という上()昇()と、再()現()性()危()機()による急()降()下()──この放()物()線()は、行()動()経済()学()だけの特()殊()な現()象()ではなく、注()目()を集()めた分()野()が通()りやすい経()路()です。重()要()なのは、急()降()下()したあとに何()が残()ったかです。次()の第()3章()で、崩()れた知()見()と生()き残()った知()見()を仕()分()けます。
CHAPTER 3

第()3章() 再()現()性()危()機() ── 何()が崩()れ、何()が残()ったか

行()動()経済()学()の代()表()的()な発見()のいくつかは、2010年代()後()半()、大()規()模()な 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → によって崩()れました。これは分()野()の恥()ではなく、科()学()が正()しく機()能()した証()拠()です。何()が崩()れ、何()が生()き残()ったのかを、順()に見()ていきます。

①社()会()的()プライミング ── 「高()齢()者()」という言葉()で歩()みが遅()くなる? ★

ジョン・バーグ、チェン、バロウズが1996年()に発表()した実験()は、高()齢()者()を連()想()させる単()語()を読()んだ被()験()者()の歩()行()速()度()が遅()くなったと報()告()しました。2026年()時()点()で5,000回()を超()えて引()用()される著()名()な研()究()になりました。しかし2012年()、ドイエンらが赤()外()線()センサーで歩()行()速()度()を厳()密()に測()定()し、はるかに大()きなサンプルで再()現()実験()を行()ったところ、効()果()は確()認()できませんでした。実験()者()自()身()が「歩()行()速()度()が遅()くなるはずだ」と期()待()していたことが、結果()に影()響()した可()能()性()が示()唆()されています。この一件()は、再()現()性()危()機()を象()徴()する事()例()として語()り継()がれています。ただしバーグ自()身()はこの 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → の手()続()き的()な妥()当()性()を公()然()と批()判()して反発()しており、プライミング研()究()者()の一()部()は現()在()も「効()果()は再()現()できている」と主()張()を続()けています。大()規()模()な 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で崩()れたという評()価()に異()論()が残()ることを踏()まえ、頑()健()度()は★(再()現()失敗()・疑()義())としています。

②自()我()消()耗() ── 意()志()力()は筋()肉()のように疲()れる? ★

ロイ・バウマイスターらが提()唱()した「自()我()消()耗()」は、意()志()力()を使()うと筋()肉()のように一時()的()に枯()渇()し、そのあとの自()制()心()が弱()まるという説()でした。しかし大()規()模()な 事()前()登()録() 実験()の前()に仮()説()と分()析()方()法()を公()開()し、あとから解()釈()を変()える余()地()をなくす手()法()。 もっと詳()しく → つきの 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → 研()究()では、この効()果()を確()認()できませんでした。 事()前()登()録() 実験()の前()に仮()説()と分()析()方()法()を公()開()し、あとから解()釈()を変()える余()地()をなくす手()法()。 もっと詳()しく → とは、実験()の前()に仮()説()と分()析()方()法()を公()開()しておく手()法()で、あとから都()合()よく解()釈()を変()える余()地()をなくす仕()組()みです(用()語()集()参()照())。バウマイスターは 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → チームの実験()実施()能()力()に疑()問()を呈()し、後()には効()果()に個()人()差()があると主()張()しており、擁()護()派()・批()判()派()の論()争()は現()在()も続()いています。大()規()模()・ 事()前()登()録() 実験()の前()に仮()説()と分()析()方()法()を公()開()し、あとから解()釈()を変()える余()地()をなくす手()法()。 もっと詳()しく → の 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で効()果()が確()認()できなかったことを踏()まえ、頑()健()度()は★(再()現()失敗()・疑()義())としています。

③パワーポーズ ── 姿()勢()を変()えるとホルモンが変()わる? ★

2010年()、カーニー、カディ、ヤップは、力強()い姿()勢()(パワーポーズ)を2分間()とるだけでテストステロンが上()がり、コルチゾールが下()がり、リスクを取()る行()動()が増()えると報()告()しました(被()験()者()42人())。この研()究()はカディ氏()のTEDトークで爆()発()的()に広()まりました。しかし2015年()にラニヒルらが200人()規()模()で 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → したところ、ホルモンの変()化()もリスク選()好()の変()化()も再()現()されませんでした。筆頭()著()者()のカーニー自()身()が2016年()、「もうこの効()果()を信()じていない」と表()明()しています。ただし撤回()したのはカーニーであり、共()著()者()のカディは撤回()していません。Cuddy, Schultz & Fosse(2018)は55件()の研()究()のp-curve分()析()から、「主()観()的()に力()を感()じる(felt power)」効()果()には明()確()な証()拠()が残()ると反()論()しています。2026年()時()点()の整()理()は「ホルモンやリスク選()好()への効()果()は再()現()されなかったが、主()観()的()な感()覚()への効()果()は残()る」という切()り分()けです。ホルモンや行()動()面()への効()果()が再()現()されなかったことを踏()まえ、頑()健()度()は★(再()現()失敗()・疑()義())としています。

再()現()性()危()機()は、他()人()の研()究()だけの話()ではありませんでした。カーネマン自()身()が、自()分()の代()表()作()の一()部()への信()頼()を撤回()しています。

2012年()、カーネマンはプライミング研()究()者()たちに宛()てた公()開()書()簡()で「この分()野()は脱線()事()故()(train wreck)に向()かっている」と警()告()していました。そして2017年()2月()、シマックらの分()析()によって、『ファスト&スロー』第()4章()が引()用()する研()究()群()の信()頼()性()指()標()(R指()数())が14だと指()摘()されました。これはほぼ信()頼()性()がないに等()しい水()準()です。指()摘()を受()けて、カーネマンは次()のように応()じています。

「私()は検()定()力()不()足()の研()究()に過()大()な信()頼()を置()いていた」

ダニエル・カーネマン、2017年()2月()

皮()肉()なことに、カーネマン自()身()の最()初()期()の論()文()のひとつ(1971年()「小()数()の法()則()の信()念()」)は、まさにこの種()の過()信()──少()ないサンプルの結果()を過()大()評()価()する誤()り──を警()告()する内()容()でした。自()分()の理()論()で自()分()の過()ちを説()明()できてしまうという巡()り合()わせです。この自()己()修()正()は、権()威()にしがみつかず誤()りを認()めた科()学()的()誠()実()さの実()例()として、いまも高()く評()価()されています。

崩()れなかった側() ── アンカリング 最()初()に提()示()された数()字()に、そのあとの推()定()が引()っ張()られる現()象()。 もっと詳()しく → と 損()失()回()避() 同()じ金()額()でも、得()る喜()びより失()う痛()みを強()く感()じる傾()向()。 もっと詳()しく →

すべてが崩()れたわけではありません。第()1章()で見()た アンカリング 最()初()に提()示()された数()字()に、そのあとの推()定()が引()っ張()られる現()象()。 もっと詳()しく → は、Many Labs 1という36サンプルの大()規()模() 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で、むしろ原()論()文()より強()い効()果()が確()認()されました。 損()失()回()避() 同()じ金()額()でも、得()る喜()びより失()う痛()みを強()く感()じる傾()向()。 もっと詳()しく → も、「2.25倍()」という定()数()の普()遍()性()こそ否()定()されましたが、効()果()そのものの存()在()は多()くの 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → で支()持()されています。

研()究()の現()在()地()メモ ── 何()が生()死()を分()けたか: 崩()れた研()究()(社()会()的()プライミング・自()我()消()耗()・パワーポーズ)に共()通()するのは、小()さいサンプル、単発()の実験()、そしてメディアで派手()に取()り上()げられたことです。生()き残()った知()見()( アンカリング 最()初()に提()示()された数()字()に、そのあとの推()定()が引()っ張()られる現()象()。 もっと詳()しく → ・ 損()失()回()避() 同()じ金()額()でも、得()る喜()びより失()う痛()みを強()く感()じる傾()向()。 もっと詳()しく → )には、統()計()的()に 検()定()力() 実際()に存()在()する効()果()を、統()計()的()に有()意()な結果()として検()出()できる確()率()。 もっと詳()しく → の高()い大()規()模()実験()と、複()数()の独()立()した 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → の積()み重()ねという共()通()点()があります。「有()名()だから正()しい」わけではなく「何()度()も同()じ結果()が出()るから正()しい」という当()たり前()の基()準()が、この危()機()が残()した最()大()の教()訓()です。なお、この3つの研()究()はいずれも当()事()者()(バーグ、バウマイスター、カディ)が公()に反()論()・再()反()論()しており、頑()健()度()ラベルの★は論()争()が決着()したことを意()味()するものではありません。

判()定(): 分()野()が縮()んだのではなく、選()別()された ── 崩()れた研()究()ほど有()名()だったが、生()き残()った知()見()のほうがいま政()策()に使()われている

CHAPTER 4

第()4章() ナッジは効()くのか ── 効()果()量()論()争()

ナッジは効()くのでしょうか。この問()いをめぐって、2022年()に大()規()模()な研()究()が相()次()いで発表()され、真()っ向()から対()立()する数()字()を出()しました。

◎ 効()く派()の根()拠()

Mertens et al. 2022(PNAS): 212本()の論()文()・447個()の 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → ・対()象()者()約()214.8万人()という大()規()模() メタ分()析() 同()じテーマの複()数()の研()究()結果()を統()計()的()に統()合()し、精()度()の高()い結()論()を導()く手()法()。 もっと詳()しく → で、平()均() 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → d=0.43(小()〜中()程()度())を報()告()*1。「ナッジは効()果()的()で、広()く応()用()可()能()」と結()論()づけました。

DellaVigna & Linos 2022(Econometrica): 米()国()の2つのナッジユニットが実施()した126件()のRCTと約()2,300万人()分()の実()データがあります。ここでも、平()均()1.4%()ポイントというプラスの効()果()が確()認()されています。学()術()論()文()より小()さいとはいえ、ゼロではありません。

△ 懐()疑()派()の根()拠()

Maier et al. 2022(PNAS): 出版()バイアス 効()果()が出()た研()究()ほど発表()されやすく、効()果()がない研()究()は発表()されにくい偏()り。 もっと詳()しく → (効()果()が出()た研()究()ほど発表()されやすいという偏()り、用()語()集()参()照())を統()計()的()に補()正()すると、結果()は大()きく変()わります。深()刻()なバイアスを仮()定()した場()合()、 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → は d=0.08まで縮()み、「ナッジが効()果()的()だという証()拠()は残()らない」と結()論()づけました。

DellaVigna & Linos 2022(同()上()): 同()じ研()究()の中()で、学()術()論()文()が報()告()する平()均()効()果()は8.7%()ポイントだったのに対()し、ナッジユニットの実()データは1.4%()ポイントにとどまりました。差()の約()70%()は、 検()定()力() 実際()に存()在()する効()果()を、統()計()的()に有()意()な結果()として検()出()できる確()率()。 もっと詳()しく → の低()さと選()択()的()な出版()(効()かなかった研()究()は発表()されにくいこと)で説()明()できるとしています。

図()解() ナッジの 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → 、どこまで本()当()か
d=0 d=0.2「わずか」の目()安() d=0.5「そこそこ」の目()安() d=0.08 d=0.43
  • d=0.08 — Maier et al. 2022( 出版()バイアス 効()果()が出()た研()究()ほど発表()されやすく、効()果()がない研()究()は発表()されにくい偏()り。 もっと詳()しく → を補()正()した推()定()値())
  • d=0.43 — Mertens et al. 2022(212本()・447 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → の メタ分()析() 同()じテーマの複()数()の研()究()結果()を統()計()的()に統()合()し、精()度()の高()い結()論()を導()く手()法()。 もっと詳()しく → )

※ d=0.2「わずか」・d=0.5「そこそこ」は、 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → の大()きさをつかむための一般()的()な目()安()の目()盛()りであり、断()定()的()な基()準()ではありません。

同()じ論()争()を、実際()に使()われた政()策()データで見()ると

学()術()論()文()の平()均()効()果() 8.7%()pt
ナッジユニットの実()データ 1.4%()pt

DellaVigna & Linos 2022(米()国()の2つのナッジユニット・126件()のRCT・約()2,300万人()分()の実()データ)

ゼロではないが、魔()法()でもない

なお、Mertens et al. 2022には、PNASから後()日()Correction(訂()正())が付()されています。撤回()済()みの論()文()のデータが含()まれていたことや、一()部()数()値()の誤()り、コーディングエラーが指()摘()されました。一方()でMertensらは、Maier et al. への反()論()(Reply, PNAS 2022)も発表()しており、論()争()は誌()上()でも続()いています。

整()理()すると、「ナッジには効()果()がある」ということ自()体()は3つの研()究()とも否()定()していません。争()っているのは「どれくらい効()くか」です。学()術()論()文()だけを見()ると効()果()は過()大()に見()え、実際()に政()策()として使()われた実()データで見()ると、効()果()はずっと小()さくなります。

2026年()時()点()の落()としどころは「小()さいが実()在()する効()果()」というところに落()ち着()きつつあります。1.4%()ポイントという数()字()でも、対()象()者()数()が数()百()万()人()単()位()の政()策()であれば費()用()対()効()果()は依()然()として良()好()な場()合()が多()いというのが実()務()側()の受()け止()めです。ただし、学()術()論()文()の華々()しい 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → をそのまま政()策()設計()の前()提()にするのは禁()物()で、実()データによる事()前()検()証()(RCT)が欠()かせません。

判()定(): ナッジはゼロではないが、魔()法()でもない ── 効()果()は小()さく、政()策()設計()には控()えめな期()待()とRCTによる事()前()検()証()が必()要()

CHAPTER 5

第()5章() データ不()正() ── 分()野()を揺()らした2つの事()件()

行()動()経済()学()が2020年代()前()半()に信()頼()を落()とした、もうひとつの理()由()がデータ不()正()スキャンダルです。しかも発覚()したのは、皮()肉()にも「不()正()・正()直()」そのものを研()究()していた2人()の研()究()者()でした。

発端()は、ダン・アリエリー、フランチェスカ・ジーノらが2012年()に『米()国()科()学()アカデミー紀()要()(PNAS)』で発表()した論()文()です。「書()類()の冒()頭()に正()直()に記()入()する旨()の宣()誓()署()名()を置()くと、人()はより正()直()に申()告()する」という内()容()で、各国()の政()府()や企()業()が実際()の書()式()に取()り入()れるほど有()名()になりました。この論()文()は2021年()に撤回()されています。

アリエリー ── 保()険()会()社()データの捏()造()疑()惑()

2021年()、研()究()不()正()の告()発()ブログData Coladaが、保()険()契()約()者()の走()行()距()離()データを使()ったアリエリーの実験()に疑()義()を提()起()しました。Excelファイルのメタデータを調()べると、データを作()成()・最()終()更()新()した人()物()がアリエリー本()人()だったことが判()明()したのです。アリエリー本()人()は「保()険()会()社()から受()け取()ったデータをそのまま使()った」と捏()造()を否()定()しています。デューク大()学()の調()査()については、アリエリー本()人()が公()表()した声()明()(デューク大()学()の了()承()を得()たとされるもの)によれば、「本()人()がデータを改()竄()した、または改()竄()と知()りつつ使()用()した証()拠()は見()つからなかった」とされています。一方()で調()査()委()員()会()は「不()正()確()なデータの公()表()を防()ぐ努()力()が不()足()していた」と指()摘()したとも報()じられています。デューク大()学()は調()査()報()告()書()を公()表()しておらず、内()容()を公()式()に確()認()していません(2024年()。本()人()の声()明()と報()道()にもとづく情()報()です)。なお2004年()の別()の論()文()にも「懸()念()の表()明()(Expression of Concern)」が付()されています。

ジーノ ── ハーバードのテニュア剥()奪()という異()例()の結()末()

2023年()6月()、Data Coladaはフランチェスカ・ジーノの4本()の論()文()についてデータ改()ざんを告()発()しました。ハーバード大()学()が実施()した約()1,300ページに及()ぶ調()査()は、「意()図()的()・故()意()・無()謀()な研()究()不()正()」があったと結()論()づけ、4本()の論()文()で改()ざんを認()定()しています。ジーノはこれを一貫()して公()に否()認()しており、「データを改()竄()したことは一()度()もない」と述()べているほか、大()学()の調()査()手()続()き自()体()が不()適()切()だったとも主()張()しています。改()ざんが認()定()された4本()は、いずれも撤回()されています(2012年()のPNAS論()文()は2021年()に、残()る3本()は2023年()に撤回())。

ジーノはハーバードとData Coladaを相()手()取()り、2,500万()ドルの名()誉()毀()損()訴()訟()を起()こしました。2024年()9月()、判()事()はData Coladaに対()する請()求()と、ハーバードに対()する名()誉()毀()損()請()求()をいずれも全()面()的()に棄()却()しています。学()術()的()な批()判()は憲法()修()正()第()1条()(表()現()の自()由())で保()護()されるという判()断()です。一方()、ハーバードとの雇()用()契()約()違()反()を争()う部()分()については審()理()が継()続()しました。2025年()5月()、ハーバードはジーノのテニュア(終()身()在()職()権())を剥()奪()して解()雇()するという、数()十年()ぶりの異()例()の措()置()に踏()み切()り、同()年()8月()にはハーバードが逆()提()訴()しました。審()理()は続()いており、2026年()中()に次()の司()法()判()断()が見()込()まれています(2026年()7月()時()点())。

研()究()の現()在()地()メモ ── 自()浄()作()用()の物語(): この事()件()のもうひとつの側()面()は、告()発()した側()が学界()からも司()法()からも支()持()されたことです。訴()訟()費()用()を募()るクラウドファンディングには、開()始()からわずか2日()で2,000人()超()が寄()付()し、2023年()9月()時()点()で約()32万()ドルが集()まり、その後()38万()ドル超()まで積()み上()がりました。「スター学()者()による華々()しい単発()の実験()」が無()条()件()に信()頼()された時()代()は終()わり、 事()前()登()録() 実験()の前()に仮()説()と分()析()方()法()を公()開()し、あとから解()釈()を変()える余()地()をなくす手()法()。 もっと詳()しく → やデータの公()開()が、いまや標()準()的()な実()務()になりつつあります。
CHAPTER 6

第()6章() 投()資()にどう効()くか

行()動()経済()学()の知()見()は、資()産()運()用()の実()務()にも直結()しています。代()表()的()なテーマが「行()動()ギャップ」と「ナッジによる貯()蓄()後()押()し」です。あなたが将()来()のために積()み立()てているNISAやiDeCoにも関()わる話()です。

行()動()ギャップ ── ファンドは儲()かったのに、投()資()家()は儲()からない

ファンド自()体()は値()上()がりしているのに、高()いときに買()って安()いときに売()る人()が多()いため、投()資()家()の手()元()に残()る利()益()はもっと少()なくなります。この差()を「行()動()ギャップ」と呼()びます。あなたが暴()落()時()にも積立()をやめずに続()けられるかどうかで、この差()の大()きさは変()わります。

この差()は、2つの計()算()方()法()のズレとして数()字()に表()れます。ファンドそのものの値()上()がり率()を表()す時()間()加()重()リターンと、投()資()家()が実際()にお金()を入()れたタイミングまで加()味()した金()額()加()重()リターンです。この2つを比()べた代()表()的()な調()査()が、次()の2本()です。

  • Morningstar「Mind the Gap」2025年版()(2024年()末()までの過()去()10年()): 投()資()家()が実際()に得()た金()額()加()重()リターンは年()7.0%()だったのに対()し、ファンド自()体()の時()間()加()重()リターンは年()8.2%()でした。差()は約()1.2%()ポイント/年()(総()リターンの約()15%()相()当())です。値()動()きの荒()いファンドほど差()は大()きく(1.8%() vs 0.8%())、ターゲットデート型()のようなオールインワン商()品()では差()が小()さい傾()向()があります。
  • DALBAR「QAIB」2025年版()(2024年()データ): 平()均()的()な株()式()投()資()家()のリターンは年()16.54%()、S&P500指数()は年()25.02%()でした。差()は848ベーシスポイント(8.48%()ポイント)で、過()去()10年()で2番目()に大()きい差()でした。

ここで必()ず添()えておきたいのが方()法()論()への批()判()です。マイケル・キッチェスらは「投()資()家()の行()動()そのものの影()響()と、リターンの時()系()列()的()な特()性()の影()響()を混()同()している」と両()社()の手()法()を批()判()しています。フルカーソンらの研()究()では、「タイミングを外()したことの純()粋()なコストは年()0.10%()に過()ぎない」という、はるかに小()さい推()定()も出()ています。行()動()ギャップという現()象()自()体()はMorningstar・DALBARどちらのデータからも読()み取()れますが、その規()模()をどう解()釈()するかは論()争()中()です。両()社()は算()出()方()法()が異()なるため、数()値()を単()純()に比()較()することはできません。

それでも狼()狽()売()りのパターン自()体()は繰()り返()し観()測()されています。DALBARの2024年()データでは、株()式()ファンドから毎()四半()期()のように資()金()が流()出()しており、最()大()の流()出()は株()価()が大()きく上()昇()する直()前()に起()きていたとの報()告()があります。高()値()で売()って安()値()で買()う、という行()動()ギャップの典()型()的()な動()きです。あなたが暴()落()時()にあわてて売()らないことが、この行()動()ギャップを小()さくする一()番()の近()道()です。

ナッジで貯()蓄()を後()押()しする ── ただし効()果()は「従()来()推()定()の72%()小()さい」

ナッジは貯()蓄()や投()資()の後()押()しにも使()われてきました。代()表()例()が自()動()加()入()とSave More Tomorrowです。

  • 自()動()加()入()(Madrian & Shea, 2001, QJE): 米()国()の確()定()拠()出()年()金()(401k)で、加()入()をデフォルト(初()期()設定())にすると、新()規()採()用()者()の加()入()率()が倍()以()上()に跳()ね上()がりました。ただしデフォルトの拠()出()率()(3%()程()度())・運()用()商()品()(MMFなど元本()確()保()型())にそのまま留()まり続()ける「受()動()的()貯()蓄()者()」を増()やす副()作()用()も指()摘()されています。
  • Save More Tomorrow(Thaler & Benartzi, 2004, JPE): 昇()給()のたびに天引()き貯()蓄()率()を自()動()で引()き上()げる仕()組()み。対()象()者()の78%()が参()加()し、80%()が4回()目()の昇()給()まで継()続()、平()均()貯()蓄()率()は3.5%()から13.6%()まで上()がりました。

ただし、この分()野()にもナッジ論()争()と同()じ構()図()があります。Choi et al.(2024、NBER Working Paper 32828「Smaller than We Thought?」)による長()期()追()跡()研()究()があります。離()職()・現()金()化()・途()中()でのオプトアウトを考()慮()すると、効()果()は従()来()の推()定()より72%()小()さいと報()告()しました。従()来()「+2.2%()ポイント」とされていた効()果()は、実際()には「+0.6%()ポイント」程()度()だったというのです。自()動()増()額()の効()果()も+0.3%()ポイントにとどまり、初()回()の増()額()が実際()に実行()される割()合()は40%()でした。「効()くが、従()来()の推()定()は過()大()だった」という、ナッジ全()体()を貫()く構()図()がここにも表()れています。

日本()では、NISA(2024年()に制()度()拡()充())やiDeCoといった税()制()優()遇()が貯()蓄()・投()資()を後()押()しする主()な手()段()で、米()国()型()の自()動()加()入()デフォルトの導()入()は限()定()的()です。デフォルト設計()というナッジの道()具()は、日本()ではまだ活()用()の余()地()が残()っています。

実践()編()はこちら: ファイナンス理()論()入()門()(investment-lp) ── 行()動()経済()学()の知()見()だけでなく、インデックス投()資()や分()散()投()資()といったファイナンス理()論()の基()本()もあわせて押()さえておくと、実際()の資()産()形()成()の判()断()がぐっとぶれにくくなります。

CHAPTER 7

第()7章() 政()策()の現()場()で

行()動()経済()学()の知()見()は、各国()政()府()の政()策()から民()間()のビジネス、毎()日()の買()い物()まで、実際()に社()会()で使()われています。代()表()例()を見()ていきましょう。

英()国()BIT ── 世()界()初()のナッジユニット

2010年()、英()国()は内()閣()府()内()に「Behavioural Insights Team(BIT)」を設()立()しました。世()界()初()の政()府()ナッジユニットです。2014年()に一()部()民()営()化()され、2021年()12月()にはNesta(慈()善()財()団())が完()全()子会社()化()し、実質()的()に民()営()の組()織()になっています。2024年()時()点()で約()245名()が在()籍()し、75カ国()超()で1,800件()を超()えるプロジェクト、700件()を超()えるRCT(ランダム化()比()較()試()験())を実施()してきました。代()表()的()な成()果()のひとつが、納()税()を促()す督()促()レターです。「あなたの地()域()にお住()まいの10人()中()9人()は、すでに納()税()を済()ませています」という社()会()規()範()に訴()える一()文()を加()えるだけで、納()税()率()が向()上()しました。

英()国()の年()金()自()動()加()入() ── デフォルト効()果()がそのまま国()の制()度()になった

同()じ英()国()では、行()動()経済()学()の知()見()が国()全()体()の年()金()制()度()になっています。2012年()から、企()業()が従()業()員()を職()場()年()金()へ自()動()で加()入()させることが法()律()で義()務()づけられました(2008年()年()金()法()にもとづく段()階()導()入())。加()入()したくない人()は、あとから自()分()の意()思()で抜()けられます(オプトアウト)。「入()りたい人()が申()し込()む」を「抜()けたい人()が申()し出()る」にひっくり返()しただけ──第()1章()で見()た現()状()維()持()バイアス(デフォルト効()果())と、第()6章()で見()た米()国()の401(k)自()動()加()入()研()究()を、国()の制()度()にまで広()げた設計()です。

結果()ははっきり出()ました。民()間()部()門()の対()象()となる働()き手()の年()金()加()入()率()は2012年()の55%()から約()88%()へ上()がり、職()場()年()金()で貯()蓄()する人()は590万人()(2012年())から1,440万人()(2021年())へ増()えました。自()動()加()入()のあとで自()ら抜()けた人()は約()10%()にとどまります(英()国()政()府()の10年()統()計())。行()動()経済()学()の知()見()が国()の制()度()になった、現()時()点()で最()大()級()の実()例()です。

日本()BEST ── 環()境()省()発()の大()規()模()実証()

日本()では2017年()4月()、環()境()省()のイニシアチブで産()学()官()民()が連()携()する「日本()版()ナッジ・ユニットBEST」が発足()しました。同()年()10月()にセイラーがノーベル賞()を受()賞()したことも追()い風()になっています。環()境()省()のナッジ事()業()は、50万()世()帯()を超()える対()象()者()を集()めた世()界()最()大()級()の実証()実験()です。省()エネ教()育()プログラム(84校()・9,899名()が対()象())では、平()均()5.1%()のCO2排出()削()減()を 統()計()的()に有()意() データの差()が偶()然()だけでは生()じにくいと、統()計()的()な基()準()で判()断()された状()態()。 もっと詳()しく → な形()で確()認()し、秦野()市()や昭島()市()で正()式()に導()入()されました。2024年()にはナッジの倫()理()チェックリストも策()定()されています。

BESTの誠()実()なところは、失敗()した施()策()も公()表()している点()です。家()庭()のカーボンフットプリント(CO2排出()量())を見()える化()するだけでは、行()動()変()化()の効()果()はありませんでした。そこに「宣()言()してもらう」「ポイントを付()与()する」という要()素()を組()み合()わせて、初()めて有()意()な効()果()が出()た、という失敗()事()例()も報()告()されています。

八王子()市()のがん検()診()はがき ── 一()文()の違()いが受()診()率()を7.2ポイント変()えた

日本()の自()治()体()には、効()果()を数()字()で確()かめた実()例()もあります。東()京()都()八王子()市()は、大()腸()がん検()診()の検()査()キットを受()け取()ったのに受()診()しなかった人()に送()る再()勧()奨()のはがきで、2種類()の文()面()を比()べました。受()診()すると来()年()度()も検()査()キットが届()くという「得()」を伝()えた文()面()では、受()診()率()22.7%()(1,761人()中()399人())。受()診()しないと来()年()度()は検()査()キットが届()かなくなるという「損()」を伝()えた文()面()では、29.9%()(1,767人()中()528人())。伝()えている事()実()は同()じなのに、損()の側()から伝()えるだけで受()診()率()が7.2ポイント上()がりました。第()1章()で見()た 損()失()回()避() 同()じ金()額()でも、得()る喜()びより失()う痛()みを強()く感()じる傾()向()。 もっと詳()しく → の、教()科()書()どおりの社()会()実装()です。この取()り組()みは後()に「ベストナッジ賞()」を受()賞()し、環()境()省()の日本()版()ナッジ・ユニット(BEST)の資()料()でも代()表()事()例()として紹()介()されています。

臓()器()提()供()のデフォルト ── ただし数()字()の読()み方()に注()意()

ジョンソンとゴールドスタインが2003年()『Science』誌()で報()告()した臓()器()提()供()の国()際()比()較()は、デフォルト効()果()を象()徴()する数()字()としてしばしば引()用()されます。臓()器()提()供()を「希()望()する人()が申()請()する」オプトイン方()式()のドイツでは提()供()意()思()登()録()率()が12%()、「希()望()しない人()が申()請()する」オプトアウト方()式()のオーストリアでは99.98%()でした。

ここに注()意(): この数()字()だけで「デフォルトを変()えれば移()植()数()もそのまま増()える」と考()えるのは誤()りです。登()録()率()と実際()の移()植()件()数()は別()物()で、家()族()の拒()否()権()や病()院()の摘()出()体()制()がボトルネックになるため、実際()の移()植()件()数()の差()は登()録()率()ほど大()きくありません。デフォルト設計()は強()力()な道()具()ですが、「登()録()率()が上()がる」ことと「移()植()が増()える」ことのあいだには、まだいくつもの現()実()的()な壁()があります。

もうひとつ、社()会()規()範()に訴()えたナッジの有()名()事()例()がテキサス州()の「Don't mess with Texas(テキサスを汚()すな)」キャンペーンです。地()元()のプロスポーツ選()手()を起()用()し、「ゴミを捨()てるのは地()元()への裏()切()りだ」という地()元()愛()に訴()えたところ、1986年()から1990年()にかけての約()4年間()でゴミが72%()減()った(1年()目()に29%()、2年()目()に54%()、1990年()までに72%())とされています。ただしこの削()減()率()はキャンペーン側()が公()表()した数()値()で、外()部()の独()立()した検()証()がそろっているわけではないため、あくまで目()安()として受()け取()るのが安()全()です。

民()間()ビジネスと、毎()日()の買()い物()にも

実装()しているのは政()府()だけではありません。米()国()のOpower(オパワー)社()は、電()気()の検()針()票()に「あなたの家()の使()用()量()は、よく似()たご近所()の家()と比()べて多()いか少()ないか」という比()較()を載()せた省()エネレポートを事()業()化()しました。効()果()を検()証()した大()規()模()研()究()では、平()均()で約()2%()の省()エネ効()果()が確()認()されています*2。1軒()あたりの効()果()は小()さくても、このレポートは6カ国()・1,500万()世()帯()以()上()へ送()られ、同()社()は2016年()、米()オラクル社()に約()5.3億()ドルで買()収()されました。社()会()規()範()(まわりのみんなはこうしている)に訴()えるナッジが、ひとつのビジネスとして成()立()した実()例()です。

そして日本()で最()も身近()な実()例()は、2020年()7月()のレジ袋()有()料()化()かもしれません。正()確()に言()うと、これはナッジではありません(ナッジは、価()格()や罰()則()を使()わずに行()動()を後()押()しする手()法()を指()します)。数()円()という小()さな価()格()づけです。それでも、コンビニでレジ袋()を辞()退()する人()の割()合()は有()料()化()前()の約()23%()から約()75%()へ跳()ね上()がり、レジ袋()の国()内()流()通()量()は約()20万()トン(2019年())から約()10万()トン(2021年())へ半()減()しました(環()境()省()の調()査())。3円()や5円()の出費()が家()計()を圧迫()するとは考()えにくいので、この変()化()の大()きさは、「無()料()でもらえて当()たり前()」というデフォルトが「辞()退()して当()たり前()」に入()れ替()わったことと、小()さくても「払()う」ことの痛()み( 損()失()回()避() 同()じ金()額()でも、得()る喜()びより失()う痛()みを強()く感()じる傾()向()。 もっと詳()しく → )で読()み解()くと、うまく説()明()がつきます。金()額()の大()きさではなく選()択()の設計()が行()動()を動()かす──行()動()経済()学()の中()心()的()な考()え方()を、あなたはレジの前()で毎()日()体()験()しているのです。

CHAPTER 8

第()8章() 批()判()と誤()解()

行()動()経済()学()にも、内()部()・外()部()それぞれから根強()い批()判()があります。

ギーゲレンツァーの「ナッジからブーストへ」

心()理()学()者()ゲルト・ギーゲレンツァーは、ナッジという手()法()そのものに懐()疑()的()です。ナッジは「人()を操()作()して望()ましい行()動()に誘()導()する」という発想()である以()上()、自()律()性()を軽()んじているのではないかという批()判()(リバタリアン・パターナリズム批()判()。経済()学()者()リカルド・レボナートの『Taking Liberties』などが代()表()的())につながります。ギーゲレンツァーが提()案()する対()案()が「ブースト」です。環()境()を操()作()するのではなく、人々()自()身()のリテラシーや判()断()能()力()を高()めて、自()分()の力()で良()い選()択()ができるようにすべきだという考()え方()です(Grüne-Yanoff & Hertwigらが理()論()化())。

生()態()学()的()合()理()性() ── バイアスは「常()に悪()」ではない

ギーゲレンツァーはもうひとつ重()要()な指()摘()をしています。ヒューリスティクス(直感()的()な近()道()の思()考())は「誤()り」ではなく、不()確()実()な環()境()に適()応()するための戦()略()だという考()え方()です。「less is more(少()ないほうが、かえって良()い)」──情()報()が少()ないほうが正()確()な判()断()ができる場()合()すらあります。行()動()経済()学()のカタログに載()っている「バイアス」を、無()条()件()に「直()すべき欠陥()」として扱()うのは早()計()だ、というのがこの批()判()の核()心()です。

統一()理論()の欠()如()と WEIRD 西()洋()・高()学()歴()・工()業()化()・裕()福()・民()主()的()の頭文字()。心()理()学()実験()の被()験()者()の偏()り。 もっと詳()しく → 問()題()

行()動()経済()学()は、数()十年()かけて数()百()のバイアスをカタログ化()してきました。しかし、「いつ、どのバイアスが発()動()するのか」を事()前()に予()測()できる統一()的()な理()論()は、まだありません。また、実験()の被()験()者()には偏()りがあります。多()くは、西()洋()(Western)・高()学()歴()(Educated)・工()業()化()された(Industrialized)・裕()福()な(Rich)・民()主()的()な(Democratic)社()会()の人々()です。この頭文字()を取()って、 WEIRD 西()洋()・高()学()歴()・工()業()化()・裕()福()・民()主()的()の頭文字()。心()理()学()実験()の被()験()者()の偏()り。 もっと詳()しく → 問()題()と呼()ばれます(用()語()集()参()照())。同()じナッジでも、文()化()や環()境()が変()われば効()果()がなくなったり、逆()効()果()(バックファイア)になったりすることがあります。だから、他()国()の成()功()事()例()をそのまま無()検()証()で持()ち込()むのは危()険()です。

よくある誤()解()3つ

  • 誤()解()①「人間()は非()合()理()だから、市()場()は当()てにならない」: 行()動()経済()学()者()自()身()(ロバート・シラーを含()む)も、市()場()が完()全()に非()効()率()だとは主()張()していません。非()合()理()性()には「予()測()可()能()なパターン」があり、裁()定()取引()には限()界()があるとはいえ、市()場()価()格()は多()くの情()報()を反()映()しています。行()動()ファイナンスは効()率()的()市()場()仮()説()を全()否()定()するのではなく、修()正()・補()完()する立場()です。むしろ「自()分()の判()断()のクセを自()覚()できないなら、インデックス投()資()のほうが安()全()」という結()論()を裏()付()ける材()料()にもなります。
  • 誤()解()②「ナッジは操()作()・洗()脳()だ」: ナッジの存()在()や狙()いを事()前()に開()示()しても、効()果()が消()えないという研()究()結果()があります。「透()明()なナッジ」──何()をしようとしているかを隠()さないナッジ──は成()立()しうるということです。
  • 誤()解()③「行()動()経済()学()は伝()統()的()な経済()学()を論破()し、置()き換()えた」: 実態()は拡()張()・統()合()です。合()理()性()を前()提()にした最()適()化()モデルという基()準()線()があるからこそ、そこからのズレを測()定()できます。行()動()経済()学()は主()流()派()経済()学()を全()否()定()する反()逆()の学()派()というより、その現()実()的()な補()正()モジュールとして機()能()しています。詳()しくは深掘()り第()3弾()「主()流()派()経済()学()ってなに? 第()4章()」でも触()れています。
CHAPTER 9

第()9章() まとめ ── 読()書()ガイド

行()動()経済()学()は、いま「ブームが終()わった分()野()」ではなく「ブームが終()わって、何()が本()物()か仕()分()けが済()んだ分()野()」です。 プロスペクト理()論() 損()失()回()避()・参()照()点()依()存()・確()率()加()重()を組()み込()んだ意()思()決定()理()論()。 もっと詳()しく → 、 アンカリング 最()初()に提()示()された数()字()に、そのあとの推()定()が引()っ張()られる現()象()。 もっと詳()しく → 、現()状()維()持()バイアスは、大()規()模()な 追()試() 既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること。 もっと詳()しく → を経()てなお立()っている頑()健()な知()見()です。一方()で、社()会()的()プライミングやパワーポーズのように、派手()に広()まった話()ほど脆()かった例()もあります。ナッジの 効()果()量() 介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()。 もっと詳()しく → は、当()初()思()われていたより小()さいものの、ゼロではありません。この仕()分()け作()業()こそが、2026年()に行()動()経済()学()を学()ぶ最()大()のメリットです。★の数()を手()がかりに、「確()立()された知()見()」と「まだ検()証()中()の話()」を区()別()しながら読()む姿()勢()を、この記()事()の外()にも持()ち出()してもらえたら書()いた甲斐()があります。

読()書()ガイド ── 5冊()、注()意()書()き付()きで

  • ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』(2011/邦()訳()2014) ── 必()読()の1冊()。ただし第()4章()(プライミング研()究())は、著()者()自()身()が信()頼()を撤回()済()みであることを念()頭()に読()んでください(第()3章()参()照())。
  • リチャード・セイラー『行()動()経済()学()の逆()襲()』(Misbehaving, 2015) ── 学()説()史()を当()事()者()自()身()が語()った記()録()として最()良()の1冊()。ただし再()現()性()問()題()への言()及()は限()定()的()です。
  • セイラー&サンスティーン『NUDGE 実践()行()動()経済()学() 完()全()版()』(Final Edition, 2021) ── 初()版()への批()判()を踏()まえた改()訂()版()。旧()版()より安()心()して勧()められます。
  • ダン・アリエリー『予()想()どおりに不()合()理()』(2008) ── 読()みやすい入()門()書()ですが、著()者()にデータ不()正()の疑()惑()があることを必()ず念()頭()に置()いてください(第()5章()参()照())。個々()のエピソードを鵜()呑()みにせず、ほかの頑()健()な知()見()で裏()を取()りながら読()むことをおすすめします。
  • 大()竹()文()雄()『行()動()経済()学()の使()い方()』(岩()波()新()書(), 2019) ── 日本語()で読()める入()門()書()の中()でも、とりわけ信()頼()できる1冊()です。著()者()は行()動()経済()学()を専()門()とする経済()学()者()(大()阪()大()学()栄()誉()教()授()・日本()経済()学会()の元()会()長())で、政()府()の新()型()コロナ対()策()分()科()会()の委()員()として、行()動()経済()学()の知()見()を実際()の政()策()につなぐ役()割()も担()ってきました。本()の中()でも「ナッジは危()険()なのか」という問()いに紙()幅()を割()いており(第()2章())、便()利()さだけを売()り込()む本()ではない点()も、安()心()して勧()められる理()由()です。

比()較()地()図()の中()での行()動()経済()学()の位()置()づけについては、深掘()り第()3弾()「主()流()派()経済()学()ってなに?」もあわせてご覧()ください。ほかの学()派()との比()較()は、比()較()地()図()トップの経済()学()の地()図()から確()認()できるほか、深掘()りシリーズには「MMTってなに?」「中()学()生()からわかる『資()本()論()』」もあります。

BONUS

おまけ ── 期()待()値()ってなに? 得()なほうを計()算()しよう

期()待()値()とは、「何()回()もくり返()したときの、1回()あたりの平()均()」のことです。

たとえば、くじが100本()あります。当()たりは1本()だけで、当()たると1,000円()もらえます。残()りの99本()はハズレで、0円()です。

このくじを100本()ぜんぶ引()いたら、もらえるお金()は合()計()1,000円()。1本()あたりにならすと10円()です。この10円()が、このくじの期()待()値()です。

計()算()のしかたは、それだけです。「もらえる金()額() × その確()率()」を、全()部()たす。

1,000円() × (1÷100) + 0円() × (99÷100) = 10円()

だから、このくじが1本()5円()で売()られていれば、買()ったほうが得()です。1本()20円()なら、買()わないほうが得()です。

「でも1回()だけ引()くなら、たぶんハズレでしょ?」と思()ったなら、そのとおりです。期()待()値()は、1回()の結果()を当()てるための数()字()ではありません。何()回()もくり返()したときに、どちらが得()かを教()えてくれる数()字()です。

では、日()常()でどう使()うのか。3つ見()てみましょう。

使()い方() ── 日()常()では、どう使()う?

① スマホの保()険()、入()るべき?

画()面()を割()ったときの修()理()代()は40,000円()。1年()のうちに割()る人()は10人()に1人()だとします。

40,000円() × 10%() = 1年()で4,000円()の損()

保()険()料()判()定()
年()4,000円()より安()い入()ったほうが得()
年()4,000円()より高()い入()らないほうが得()

例()外(): 40,000円()をすぐ出()せないなら、損()でも入()る。払()えない額()の損()は、この計()算()の外()です。

計()算()機()に 0 / 40,000 / 90%()(90%()は「割()らずに済()む確()率()」) と入()れると −4,000円()と出()ます。

② この勝負()、やるべき?

サイコロを1回()ふる。6が出()たらもらえる。6以外()なら200円()払()う。

もらえる額()期()待()値()判()定()
1,200円()+33円()やったほうが得()
1,000円()0円()どちらでも同()じ
900円()−17円()やらないほうが得()

分()かれ目()は1,000円()。負()けるほうが5倍()起()きやすいので、勝()ったときに5倍()もらえないと合()いません。

計()算()機()に 1,200 / 200 / 16.67%() と入()れると +33円()と出()ます。

③ お金()じゃなくても使()える

明日()のテストは3単元()から出()る。復()習()できるのは1つだけ。

単()元()配()点() × 出()そう期()待()できる点()
A30点() × 50%()15点()
B50点() × 20%()10点()
C20点() × 80%()16点()(いちばん高()い)

配()点()がいちばん低()いCが勝()ちます。「大()きさ」ではなく「大()きさ × 起()こりやすさ」で選()ぶ。

その確()率()、どこから持()ってくる?

ここまでの計()算()は、すべて確()率()が正()しいという前()提()の上()にあります。期()待()値()は「金()額() × 確()率()」なので、確()率()がいいかげんなら、答()えもいいかげんです。

出()どころ例()確()かさ
数()えて出()すサイコロ、コイン、くじ高()い(計()算()で出()る)
記()録()から出()す事()故()の統()計()、天()気()予()報()件()数()が多()いほど確()か
見()当()をつけるテストのヤマ、初()めての挑()戦()低()い(当()てずっぽうになりやすい)

自()信()がないときは、幅()で計()算()する。スマホを割()る確()率()が本()当()に10%()か分()からないなら、高()めと低()めの両()方()を入()れてみます。ここでは、月()500円()(年()6,000円())の保()険()に入()るかどうかで考()えます。

割()る確()率()保()険()料()の分()かれ目()年()6,000円()の保()険()は
5%()年()2,000円()損()
10%()年()4,000円()損()
20%()年()8,000円()得()

同()じ保()険()でも、確()率()の見()積()もりしだいで答()えがひっくり返()りました。こうなったら計()算()をやり直()すより、「自()分()は1年()に何()回()スマホを落()とすか」を思()い出()すほうが先()です。逆()に、どの確()率()でも結()論()が同()じなら、そこは迷()わなくて大()丈()夫()です。

「ガチャの排()出()率()1%()」のように、誰()かが公()表()した確()率()もあります。その数()字()を使()うときは、誰()が出()した数()字()かも見()ておくと安()全()です。

覚()えて帰()る4行()

  • 確()率(): あやしいときは、高()め・低()めの両()方()で計()算()して、結()論()が変()わるか見()る
  • 勝負(): もらえる額() × 勝()つ確()率() > 失()う額() × 負()ける確()率() なら、やる
  • 保()険(): 保()険()料() < 損()害()額() × 起()きる確()率() なら、入()る
  • 例()外(): 払()えない額()の損()は、計()算()の外()。保()険()に任()せる

計()算()機() ── この賭()け、やったほうが得()?

円()
円()
%()

1回()あたりの期()待()値()

+5,000円()

やったほうが得()

もらえる20,000円()が50%()、失()う10,000円()が50%()。ならすと1回()あたり5,000円()のプラスです。くり返()すほど、やったほうが得()になります。

勝()てば2万()円()、負()ければ1万()円()。勝()つ確()率()は半()分()です。期()待()値()は+5,000円()なので、やったほうが得()です。でも、これと同()じ形()の賭()けを実際()に持()ちかけられた人()は、断()りました。1963年()、経済()学()者()のサミュエルソンが同()僚()に「勝()てば200ドル、負()ければ100ドル」の賭()けを持()ちかけたときの話()です。同()僚()はこう答()えました。「1回()なら断()る。でも100回()まとめてなら受()ける」。この答()えが正()しかったことは、下()の「くり返()すとどうなる?」で確()かめられます。

くり返()すとどうなる?

期()待()値()は「何()回()もくり返()したときの平()均()」でした。では、実際()にくり返()すとどうなるのか、確()かめてみましょう。

1回()
  • 合()計()の期()待()値()+5,000円()
  • トータルで損()する確()率()50.0%()

回()数()を少()しだけ増()やしたときに、損()する確()率()がかえって上()がることがあります。勝()ちが「あと1回()」足()りるかどうかが、回()数()によって変()わるためです。期()待()値()がプラスなら、回()数()を大()きくしていけば下()がっていきます。

ボタンを押()すと、実際()にこの賭()けをやってみます。

やったほうが得()。ただし1回()ごとの結果()は気()にしない

1回()あたりの期()待()値()はプラスですが、1回()では50.0%()の確()率()で損()が残()ります。回()数()を増()やせば、この確()率()は下()がっていきます。スライダーを右()に動()かして、確()かめてみてください。

くり返()すための条()件(): 「何()回()もくり返()す」には、途()中()で退()場()しないことが必()要()です。3回()目()で全()財()産()を失()ったら、4回()目()はありません。期()待()値()がプラスでも、1回()に賭()ける額()を大()きくしすぎると、平()均()にたどりつく前()に破()産()します。回()数()を味()方()につけるコツは、1回()の額()を小()さくすることです。
この計()算()機()について: ここで出()している数()字()は、条()件()を単()純()にした目()安()です。実際()の宝()くじや保()険()には、下()位()の当()せんや特()約()など、もっと細()かい条()件()があります。賭()けや特()定()の金()融()商()品()をすすめるものではありません。
おまけのおまけ ── 頭()で分()かっても、体()が動()かないのはなぜ?

ここまでで、「期()待()値()の高()いほうを選()べばいい」と分()かりました。でも実際()には、多()くの人()がそうしません。さっきの「勝()てば2万()・負()ければ1万()」も、期()待()値()では+5,000円()なのに、断()る人()のほうが多()いのです。

理()由()は、人()が損()を得()より重()く感()じるからです。1万()円()もらう喜()びより、1万()円()失()う痛()みのほうが大()きい。この重()さの差()を測()ってみましょう。

損()は得()の何()倍()、痛()い?

コインを1回()投()げます。裏()が出()たら1万()円()を失()います。表()が出()たら◯円()もらえます。◯がいくらなら、あなたはこの賭()けを受()けますか?

20,000円()

あなたの損()失()回()避()倍()率() 2.0倍()

損()の痛()みを、得()の喜()びの2.0倍()に感()じています。多()くの実験()で報()告()されてきた範()囲()のど真()ん中()です。

  • 期()待()値()+5,000円()
  • あなたの実感()-1,017円()相()当()

期()待()値()では5,000円()の得()なのに、あなたの実感()ではマイナスです。だから断()りたくなります。期()待()値()の高()いほうを選()び損()ねる、いちばんよくある場()面()がこれです。

勝()つ確()率()50%()は約()42.1%()に、負()ける確()率()50%()は約()45.4%()に感()じられています。

この2つを足()しても100%()になりませんが、計()算()ミスではありません。人()の確()率()の感()じ方()には、足()して100%()にならないというクセがあります。

この「実感()」の計()算()には、Tversky & Kahneman(1992)という研()究()が実験()から求()めた数()字()を使()っています。ただし、これは万()人()に当()てはまる定()数()ではありません。だから、損()は得()の何()倍()痛()いかだけは、上()のスライダーであなた自()身()に決()めてもらいました。目()安()として遊()んでみてください。

GLOSSARY

用()語()集()

プロスペクト理()論()
損()失()回()避()・参()照()点()依()存()・確()率()加()重()を組()み込()んだ意()思()決定()理()論()。カーネマンとトヴェルスキーが1979年()に発表()。
損()失()回()避()
同()じ金()額()でも、得()るときの喜()びより失()うときの痛()みを強()く感()じる傾()向()。「何()倍()痛()いか」は文()脈()依()存()とされる。
確()率()加()重()
小()さい確()率()を実際()より大()きく、大()きい確()率()を実際()より小()さく感()じる傾()向()。宝()くじを買()うことと保()険()に入()ることを、同()じ1本()の曲()線()で説()明()できる。
期()待()値()
何()回()もくり返()したときの、1回()あたりの平()均()。「もらえる金()額() × その確()率()」を全()部()たして求()める。1回()の結果()を当()てるための数()字()ではない。
アンカリング
最()初()に提()示()された数()字()に、そのあとの推()定()が引()っ張()られる現()象()。検()証()された古()典()的()効()果()の中()でもとりわけ頑()健()。
現()状()維()持()バイアス(デフォルト効()果())
初()期()設定()のまま変()えずにいる傾()向()。政()策()のデフォルト設計()の根()拠()になる。
ナッジ
選()択()の自()由()を残()したまま、環()境()設計()で望()ましい行()動()を後()押()しする手()法()。効()果()は実()在()するが平()均()的()には小()さい。
効()果()量()
ある介()入()や条()件()の違()いが、結果()にどれだけの大()きさの差()を生()んだかを表()す統()計()指()標()(例(): Cohenのd)。「効()果()があったかどうか」だけでなく「どれくらい効()いたか」を表()す数()字()。
メタ分()析()
同()じテーマを扱()った複()数()の研()究()結果()を統()計()的()に統()合()し、より精()度()の高()い結()論()を導()く手()法()。個々()の研()究()単()体()より信()頼()性()が高()いとされる。
検()定()力()
実際()に存()在()する効()果()を、統()計()的()に有()意()な結果()として正()しく検()出()できる確()率()。サンプルサイズが小()さいと検()定()力()が低()くなり、本()当()の効()果()を見()逃()しやすくなる。
統()計()的()に有()意()
観()察()されたデータの差()が、偶()然()だけでは生()じにくいと統()計()的()な基()準()(通()常()はp値()0.05未満())で判()断()された状()態()。「効()果()が大()きい」こととは別()の基()準()で、小()さな効()果()でもサンプルが大()きければ統()計()的()に有()意()になりうる。
追()試()
既()存()の研()究()結果()を、別()の研()究()者()・別()のサンプルで再()現()できるか検()証()すること(再()現()性()の検()証())。追()試()で崩()れた発見()と、追()試()でも確()認()された発見()を見()分()けることが、この分()野()の信()頼()回()復()の土()台()になった。
出版()バイアス
効()果()が確()認()された研()究()ほど論()文()として発表()されやすく、効()果()がなかった研()究()は発表()されにくいという偏()り。メタ分()析()の結果()を過()大()評()価()させる一因()になる。
事()前()登()録()
実験()の実施()前()に、仮()説()と分()析()方()法()を公()開()しておく手()法()。あとから都()合()よく解()釈()を変()える余()地()をなくし、再()現()性()を高()める。
WEIRD
Western(西()洋())・Educated(高()学()歴())・Industrialized(工()業()化())・Rich(裕()福())・Democratic(民()主()的())の頭文字()。心()理()学()・行()動()経済()学()の実験()被()験()者()の偏()りを指()す。

▶ サイト全()体()の用()語()集()を見()る

FURTHER READING

参()考()文()献()

頑()健()な原()論()文()と、それを検()証()したメタ分()析()・追()試()研()究()を並()べています。賛否()どちらかに偏()らず、まずは対()立()する2本()を読()み比()べてみることをおすすめします。

  • 原()論()文()Daniel Kahneman and Amos Tversky, “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk”(Econometrica, 1979)
  • 原()論()文()Amos Tversky and Daniel Kahneman, “Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases”(Science, 1974)
  • 政()策()への応()用()Richard H. Thaler and Cass R. Sunstein, “Nudge: Improving Decisions about Health, Wealth, and Happiness”(2008)
  • 効()果()量()メタ分()析()(効()く派())Stephan Mertens et al., “The effectiveness of nudging”(PNAS, 2022) ── 平()均()効()果()量()d=0.43、95%()信()頼()区()間()0.38〜0.48。第()4章()で紹()介()。
  • 効()果()量()メタ分()析()(懐()疑()派())Maximilian Maier et al., “No evidence for nudging after adjusting for publication bias”(PNAS, 2022)
  • 実()データ検()証()Stefano DellaVigna and Elizabeth Linos, “RCTs to Scale: Comprehensive Evidence from Two Nudge Units”(Econometrica, 2022)
  • 政()策()研()究()Eric J. Johnson and Daniel Goldstein, “Do Defaults Save Lives?”(Science, 2003)
  • 実証()研()究()Hunt Allcott, “Social norms and energy conservation”(Journal of Public Economics, 2011) ── Opowerの省()エネレポート(近()隣()比()較())の効()果()を約()60万()世()帯()の実験()で検()証()した研()究()。第()7章()で紹()介()。
  • 公()式()統()計()GOV.UK, “Ten years of Automatic Enrolment in Workplace Pensions: statistics and analysis”(2022) ── 英()国()の年()金()自()動()加()入()10年()の公()式()統()計()。第()7章()で紹()介()。
  • 政()策()資()料()環()境()省()・日本()版()ナッジ・ユニットBEST「八王子()市()の取()組()(大()腸()がん検()診()受()診()率()向()上()策())」(2020年()2月()) ── 損()失()フレームはがきの実測()データ。第()7章()で紹()介()。
  • 長()期()追()跡()・下()方()修()正()James J. Choi et al., “Smaller than We Thought? The Effect of Automatic Savings Policies”(NBER Working Paper 32828, 2024年()8月())
  • 投()資()データMorningstar, “Mind the Gap”(2025年版())
  • 投()資()データDALBAR, “Quantitative Analysis of Investor Behavior(QAIB)”(2025年版())
  • 計()算()機()の出典()Amos Tversky and Daniel Kahneman, “Advances in Prospect Theory: Cumulative Representation of Uncertainty”(Journal of Risk and Uncertainty, 1992) ── おまけの「おまけのおまけ」で「実感()」を計()算()するときに使()っている、価()値()関()数()・確()率()加()重()関()数()のパラメータの出典()。
  • 古()典()Paul A. Samuelson, “Risk and Uncertainty: A Fallacy of Large Numbers”(Scientia, 1963) ── おまけの計()算()機()のプリセット「勝()てば2万()・負()ければ1万()」で紹()介()している、同()僚()に賭()けを断()られた逸()話()の出典()。

※本()ページはこれらの出典()をもとに、賛否()両()論()を尽()くして要()約()したものです。特()定()の投()資()判()断()・政()策()的()立場()を推()奨()する意()図()はありません。

このページで覚()えておいてほしいこと

この記()事()は「経済()学()の地()図()」深掘()りシリーズ第()4弾()です

行()動()経済()学()は、比()較()地()図()の6学派()には数()えられていませんが、各()学()派()に組()み込()まれた「合()理()性()の補()正()レンズ」として、経済()学()全()体()の見()え方()を大()きく変()えた分()野()です。頑()健()度()ラベルを手()がかりに、ブームの外()側()にある「本()物()」を見()分()けてもらえたら幸()いです。あわせて経済()学()の地()図()のトップページもご覧()ください。

経済()学()の地()図() トップへ戻()る